意外やテーマは自分探し?/70年代北海油田冒険小説『北海の星』

ただいま、次のイアンものの資料を漁っております。北海に沈んだUFO、という話になる予定なので、北海関係、UFO関係をいろいろと。モチーフとしてがっつり出すかどうかは関係なく、なんとなく心惹かれるものを見て回ってるのですが……いやー楽しい楽しい♪(笑) マイブームになってしまったのが「北海油田」です。なんというか、巨大な工場が海上ににょきり生えているような、姿のSF感がたまらなくて。廃墟萌えにもがっつり対応する魅力です。アマゾンで検索してたら海上油田基地のプラモデル(廃墟じゃないけど)まであって、桁が一つ低かったら買ってました……。(高い(笑))

 

そんな中で、北海油田そのものを舞台にした小説を見つけました!それがこちら、ハモンド・イネス作『北海の星』。シェトランド諸島の西に発見された油井がモチーフなので正確には大西洋なのですが、大きく北海油田の一部と括られるようです。

 

これ、書かれたのは1970年代。主人公が労働争議に関わってたり、「コミュニスト」や「アナーキスト」などの用語が飛び交って素敵な時代感があります。北海油田がブイブイ言わせてた(この言い方ももう死語?)のがこの時代なので、当時の「ホットなモチーフ」で書かれた海洋冒険小説、という感じです。イギリスのアマゾンで感想を見てみたら、今は失業補償制度があるから、労働争議にここまで入れ込む気持ちがわからない……というのがあって。なるほどなー、本国でも時代が変わるとこういうものなんだな……と興味深かったです。日本はその点まだまだなので、かえって感情移入はしやすいかもです。(ただ、過激な行動はやはり受け入れがたいかも)

 

読んで「あれっ」と思ったのが……この主人公、冒険小説の主役らしくないんです。

年齢ははっきりしませんが妻と疎遠になっていて、たぶんもう若くはなく三十代後半~四〇代前半くらいの印象。幼少時に両親が離婚し、母が再婚した富豪の義父とは折り合いが悪く、高学歴ながら放浪の末労働者側に立つようになり、今はトロール漁船に乗っている……という、ありがちといえばありがちなナイーブな主人公。それはいいとして、いろいろと割り切れてないし強くもなく、判断力もない。やっちまったあとに後悔ばかりしていてます。だけどクライマックスではなぜか知識もないはずの油田基地の指揮を執る羽目になり(「門外漢が専門家より正しい判断をする」というお約束(笑))、何もしなくとも女性(主人公と対照的にしっかりした、生活力がある魅力的な未亡人)がすり寄ってくれて、じゃあ妻はどうすると思ったら(予想がつきますがネタバレ自粛)……とまあ、男性の願望を満たすエンタメ作品ゆえ仕方ないですが、女性の目で見るとちと都合がよすぎて辟易する部分もありました。(^^;)

 

で、この彼がとある陰謀に巻き込まれ、死んだ実父の秘密などが絡んでいくのですが……文字通り巻き込まれ型。行動は完全に受け身です。おまけに最後は騒動の中で出会ったかの女性と生きていこう、という予定調和でげんなりしたのですが……ハタと気づきました。原題は"North Star"。物語に出てくる油田基地の名前なのですが、意味としては「北極星」です。これは人生の目指すべき方向を示すものの比喩。そこで「ああ、全体が自分探しの話だったのか……」と合点がいったわけです。(邦題は工夫したのでしょうね。北極星じゃイメ―ジ湧きませんし、当時ホットだった北海油田のイメージを取り込んだ判断は正しいと思います。原題の自分探しのニュアンスまで含めるのは難しいですね)

 

wikiを見てみたら、このハモンド・イネスという人の書く主人公は「冒険小説の主人公らしくない」のが特徴だそうで、この作品もこの人らしい作品であったわけです。綿密に取材をして書く方だそうで、この小説も前半に海上油田基地の微に入り細に穿った描写がありました。自分はそれを読むのが目的だったものの、小説としては情報量に作家自らが翻弄されている感じで、そこが物語から乖離して浮いている印象がありました。あとがきに時間の制約で筆を急いだ、という記述があったので、それはそのせいかな、と思いました。(現実が考えていたものに追いついてきてしまい、早く出さなければ、という状況だったらしい)別に読んだ北海油田のルポルタージュと同様で、こちらもシェル石油の油田基地を取材して書かれた、とのことでした。まあそのへんを読むには良かったかな、と思います。

 

…なんだか辛口なことを書いてしまいましたが(^^;)、じつはこのハモンド・イネス、かすかな思い入れがあります。読んだこともないのに名前に聞き覚え(読み覚え?)があって、記憶を手繰ったら大昔に父の本棚にあった海洋冒険小説が、この人の『銀塊の海』という作品でした。新聞以外ほとんど読まない人なので印象に残っていました。日本では70年代頃翻訳が出版されたようですが、1950年代には映画化作品もあります。『キャンベル渓谷の激闘』(1957)はダーク・ボガード(『ベニスに死す』の!)とスタンリー・ベイカー(『ズール戦争』の!)、『メリー・ディア号の難破』(1959)なんてゲイリー・クーパー、チャールトン・ヘストン、リチャード・ハリス出演と豪華。いずれも日本でDVDは出ていないようなのですが、見てみたいです~!

 

 

…冒険小説でナイーブな主人公というのも、当時は新機軸だったのかな……なんて想像しています。今ちょっと70年代あたりの空気感がマイブームなので、ちょっともう少し漁ってみたい気もします。紙の本は軒並絶版ですが、古書やkindle版ではまだ手に入るようなので……『銀塊の海』も機会があったら読んでみたいです。(老父に「これ持ってたよね」と聞いたら「そうかあー?」と流されてしまったので、家で探すのはあきらめました……(笑)) 

 

下はYouTubeで見つけたハモンド・イネスご本人の映像です。未使用とのことで音声もありませんが、なにかのPR用でしょうか。時代感がたまりません…。