正統派(?)古本屋さんと「昔の新書」

正統派(?)古本屋さん

 

書きかけのまま、なかなかアップできなかった記事です。(^^;)もう先月のことになってしまいましたが、自宅から歩いて30分くらいの、しばらく(ウン十年くらい?)行っていなかった辺りに散歩に行きました。あまり人けがないところですが、昔おいしくて安価なパンとケーキのお店があったんです。で、それを目的に(笑)。でもショーケースは空だし、店員さんもなく、なんだかごちゃっとしていたので……「閉業準備?」と落胆。…あとで「午前で商品がなくなる人気で、午後に行ったためスッカラカンだった」ことが判明しました。(今度リベンジします!)

 

で、その二、三軒隣に、記憶になかった小さい古本屋さんがありました。なんとなくで入ったのですが、これが掘り出し物のしっかりした「古書店」! 今よくある「リサイクル書」ではありません。「古書」です。神保町の専門店にあるような意味での「古書」。ものすごく敷地が狭いので本は少なかったですが、専門書のジャンルの分け方、その内容など少数ながら本格的で、「古書店の空気」を一瞬吸えた気が。こんなに近くにこういう場があったとは…!と嬉しくなりました。ブックオフ系ならあるんですけど、やはり雰囲気違いますもんね……。で、隅から隅まで見て、ちょうどそのとき探していた古い新書があったので購入。200円ナリ。(写真がそれです。良書なのでのちほどご紹介します♪)レシートが出ませんが、と言われたのでそのまま本だけ頂いて来ました。

 

本がひんぱんに入れ替わるお店ではなそさうですが、一週間ほどしてまた行きました。今度は買うものが見つかりませんでしたが、半年に一回くらい行きたいかな。(笑) 検索してみたら、お店のHPとか情報発信はいっさいなく、紹介しているのは、各地の古書店を発掘して歩いているブロガーさんの記事だけでした。(その方も行った翌週あたりにまたなんとなく行っている。すごく気持ちわかる! 行きたくなります!)

 

そちらでも書かれてましたが、ドアを開けると付いている鈴が「チリリン♪」と鳴って、奥から品のいいおばさまが「いらっしゃいませ」と出てきてくれました。正直カウンターとの距離が近すぎて、自分は待たせているようで落ち着かなくもあったのですが、慣れてらっしゃるのか「気配の消し方」がプロでした(笑) 。シャッ、シャッと音がしていたので、本に紙やすりでもかけていたのでしょうか。

 

 

(…ちょっと話が逸れますが、こういう本のクリーニング、出版社勤務時代に返本の再生で大量にやりました。小口や天の汚れは紙やすりで、カバーはPP貼りなら水雑巾。あと消しゴムも使いました。今も古本買ったときに汚れが気になるとやってます。最近は水雑巾でなく、100均で売ってるアルカリ電解水クリーナーとティッシュです。(除菌・消臭効果も謳われてるのでただの水よりいいかなと)かなりキレイになるので、やってみると快感ですよ♪)

近辺のさびれた感じのお店も昭和の香りが漂っていて、昔行った時の懐かしさもあったので、ちょっといいタイムトラベルになりました。

 

 

「昔の新書」

 

で、購入したのが写真の『ヨーロッパとは何か』。初版は1967年という古い本です。(写真は長距離歩いて帰宅後のおやつと共に。いつもはこんなに食べないです(笑))じつはそのとき図書館で借りて読んでいて、すごくいいので買おうと思っていたところでした。(イアンシリーズの「肥し」です☆)買ったその足で図書館の本を返しに行きました。(笑) 私たちがイメージする「ヨーロッパ」(西ヨーロッパ)が、おおまかに言って大昔のフランク王国の領域であることを、その地形、民族、宗教、言語やらの特色を交えて解説しているもので、これを読んでから「ヨーロッパ」をつかみやすくなりました。(1つのまとまりというイメージと同時に、いろんな民族がいて常にすったもんだしているというイメージ)先日から読んでいた現代史の本でも、第一次世界大戦前にドイツの皇帝が支配を目指していたという「中欧(ミッテル・オイローパ)」という地域概念が出てきたんですが、地図で見るとまんま旧フランク王国の版図で、「なるほどなあ、それを『取り戻す』感覚だったわけか……」とキモチヨク理解できました。こういうのって、頭から「こうなんだよ」と聞くよりも、自分で「そうなのか」と推理・理解すると頭に残りやすいし楽しいもんですね。知識って単独の情報のことではなく情報と情報のつながりのこと、ともよく言われますが、それを作る過程が楽しいのかも。後述しますが、文章に「人間の脳みそを通った感じ」を感じるか否かもそこかもしれません。

 

最初のほうで、ヨーロッパを「ギリシア・ローマの古典文化の伝統、キリスト教、ゲルマン民族精神」が絡み合っているもの、と書かれています。ぼんやりとイメージしていたものが言語化されて、なるほど納得。ヨーロッパでは実際そう教えられている、とのことでした。で、古典時代の衰退から中世がどうなっていくか、というあたりでヨーロッパの原型を解説してくれるのですが……個人的には中世ヨーロッパにほとんど興味がなくて(^^;)、最初はちょっと読むのがしんどかったです。ただ、クリストフアー・リーの遠い祖先が「シャルルマーニュ」(=フランク王国のカール大帝のフランス語読み)だとかで、生前その名前を冠したヘビメタアルバム(というか、曲のテーマにもなっている)を出して、王冠を被ったジャケット写真を使っていたり、映画の独立プロダクションを作ったときも名前が「シャルルマーニュ」だったりした……というなけなしのイメージからなんとか興味を掻き立てることができました(笑)。

 

この読後の満足感は、新書では久しぶりでした。ちょっと思いだしたのが、以前の記事でご紹介した『読書の技法』(佐藤優著)で触れられていた、「古い新書の書かれ方」――巻末におすすめ本の紹介などがあって、「読者がこの本で完結せず先に進めるものまで入っている」――でした。私、新書のイメージってまさにこれで……なにか興味が出た分野があるときに、その入り口として一般人が入りやすいように、専門家が書いてくれている安価で薄い本。パンピーの「知りたい欲求」の良心的な受け皿……いまだにこのイメージのままです。なので、それに合うのは古めの岩波新書か中公新書くらいかもしれません。逆にイマドキの、新書に限りませんが、サクッと読了できて即ブックオフに売られそうな(失礼(^^;))本は別物に思えます。なにか「人間の脳みそを通して書かれた感覚」が薄くて。もちろんすべてがそうではないんですけど、昔の本にはそれがあって当たり前だった感じがするんです。最近60-70年代の古書をいとおしく思うのですが、この感覚も魅力の一部かもしれません。

 

今回の『ヨーロッパとは何か』には、文献紹介はありません。が、別の意味で一般人向けの配慮がなされていました。章の終わりに、その章で説明したことを改めて言い換えて理解を定着させてくれたり、あと大事なのが関連する地図をつけてくれてること。私、地理がしっかり頭に入ってないので、地名だけ聞いても「どこ?」ということが多いんです。だからある程度細かい地名が重要な本では地図帳必須です。(^^;)ましてや特定のテーマで解説されるときは、それをビジュアルで見せる地図が本にあるとないとでは大違い。おかげでそのあと「ヨーロッパ」に関するニュースや本に入り込みやすくなりましたし、それが「入りぐち本」としての満足感にもつながっていました。

 

同じテーマの本はいろいろありますが、この本の冒頭には日本人から見て「追いつけ追い越せ」の対象だったヨーロッパ、そして日本側の西欧文化の導入方法への反省、という視点での考察がありました。今に通じるところも多くて独特の価値を感じますし、やはり日本人として入りやすいところでもありました。

 

…新書や文庫の巻末には、同じシリーズの既刊のリストがありますよね。じつはあれを見るのがすごく好きで(笑)。カバーの見返しにも近いジャンルの本が宣伝されてたりして……今回は大好きなE・H・カーの『歴史とは何か』もありましたし、現在絶版で当時ホットだったらしいテーマの本も並んでいて、その時代感も楽しめました。古いテレビ番組の録画に入ってるCMが妙にいとおしい、みたいな感覚でしょうか(笑)。隅から隅まで楽しめた一冊でした。(あ、ちなみに著者は故人ですが、『ヨーロッパとは何か』は現在も刊行されています! これも納得であります☆)