『青い紅玉』改めて傑作でした❤

原作は新潮文庫。グラナダ版DVDはハピネットの二代目と廉価なデジタルリマスター版。最近はあまり見ていませんが、見直す時はほとんどリマスター版です。初代ハピネット版はだいぶ前に友人のところへ嫁に出したのですが、モリアーティー教授の写真がついた外箱が好きで、箱だけ手元に残させてもらいました。
原作は新潮文庫。グラナダ版DVDはハピネットの二代目と廉価なデジタルリマスター版。最近はあまり見ていませんが、見直す時はほとんどリマスター版です。初代ハピネット版はだいぶ前に友人のところへ嫁に出したのですが、モリアーティー教授の写真がついた外箱が好きで、箱だけ手元に残させてもらいました。

今、クリスマスにそなえてホォムズとワトスン(うちのギャグ漫画版で「ホームズ」でなく「ホォムズ」(^^))のごあいさつ画像を描いているのですが、先日ネタ出しをしていたとき、「そうだ、ホームズさんのクリスマスといえば『青い紅玉』!」と思いつき、久しぶりに原作を読み直してみました。「クリスマス・ストーリー」としての工夫がこんなに詰まっていたのか……と改めてドイルせんせに惚れ直し、ついでにグラナダ版も見直していろいろ思うところがあったので、書き留めておこうと思います。(※原作、およびグラナダ版独自の脚色点のネタバレになってしまうので、未読・未見の方はご注意くださいませ)

 

…さて、タイトルは『青い紅玉』で記憶していながら、愛読してる原作はタイトルを『青いガーネット』と訳している新潮文庫版なのですが……(なので、『追憶のシャーロック・ホームズ』の文体は延原訳がお手本です)以前はふんふんと読み流していた部分の工夫やユーモアがすごく感じられて、目からウロコが落ちっぱなしでした。全体にコメディ感とほのぼの感がこんなに工夫されていたんだなあ、と。

 

冒頭では別の意味でびっくりで。というのは、すっかり「クリスマス当日の話」だと思い込んでたんですが、じつは「クリスマスの二日後」の話だったんですね。しかもこの時ホームズとワトスンは別居中(違(笑))。…たぶんグラナダ版でスリコミすぎたために、自分のなかで「2人は一緒に住んでて『青い紅玉』はクリスマス当日の話」になってしまってるんだと思います。(^^;)

…帽子の話から宝石に話がつながるところはおとぎ話的でもあり、「(ガチョウが)生きかえって台所の窓から飛んでったといでもいうのかい?」なんて冗談を言うのも面白いし、帽子を受け取りに来たヘンリー・ベイカーとのやりとり――「あれは仕方がないから食べてしまいましたよ」「食べたんですか?」――もすごくコミカル! 

 

そして一番すごいと思ったのが、ガチョウを商っているブレッケンリッジから「賭け」で仕入れ先を聞き出すところ。これまでなんということもなく読んでいたんですが、このアイデアの詰め込み方の細やかさって……!と、なぜか今回は感動してしまったんです。へんな言い方ですが、「ストーリーの段取り」になってない。いちいち「芝居のしどころ」があるというか。ドイルせんせは短編を書くのにも長編を支えられるくらいのアイデアを用意する、と自伝か何かで書いていらしたと思うんですが、まさにこういうことなんだなあと。…個人的には、ドイルせんせは推理作家というより物語作家(ストーリーテラー)だなーと感じるのですが、それを強く感じるのがこういうところです。

 

…今回は目的がクリスマス画像のネタ出しだったので、「そういえばヴィクトリア朝でクリスマスツリーやサンタクロースってありなんだろうか?」と思って調べていたら、サンタの起源の説明の中で「(サンタのイメージ元の)聖ニコラオスは無実の罪で捕まった死刑囚を助けた」というエピソードにぶつかりました。(→Wikipedia「サンタクロース」)『青い紅玉』もまさに「無実の罪で捕まった人を助ける」というモチーフを踏襲しているんですよね。そして……あえて犯人を逃がしてやるラスト。「これで一つの魂が救われると思う」「もしここで刑務所に送ってやれば、あいつは常習犯に転落してしまうだろう」という判断、「寛容と許しの季節」というクリスマス精神が散りばめられていて、いい気持ちで読み終えることができる仕掛け。探偵の話だから犯罪を絡めるという縛りはあるんですが、その範囲でできるクリスマス・ストーリー――クリスマスシーズンのための心温まるお話――として、めいいっぱいの工夫で書かれてるんだなあ……と、しみじみ感じました。

 

グラナダ版も、もともとは頭の中のイメージが「前髪おろしたジェレミー・ブレットが見られる❤」で塗りつぶされていたんですけど……(たぶん他のシーンを飛ばして「寝起き」のシーンを繰り返し見ていたためで、スタートも221B前の路上から、というイメージになってます!(^^;))今回は早送りも飛ばしもせずに(笑)見直して、逆に「原作からこう脚色したのかあ……!」という目線で新鮮に見ることができました。

 

導入部でサクッと宝石の来歴を見せてしまう手際の良さ、そして無実の罪を着せられるホーナーのキャラクターと設定を立体的に膨らませているところ。原作では彼自身も妻も出てこないし、彼の扱いは正直雑だった(笑)ので気になってました。その原作にない「解放されたホーナー」のシーンを付け加えるために、「ホーナーが捕まったままじゃ(クリスマスを)祝う気分になれない」ワトスンに言わせているのもうまいなあ、と思いました。ここまでの過程でホームズは、帽子の持ち主のヘンリー・ベイカーが宝石とは関係ないとわかると途端に彼に興味を失ったり、「ホームズらしい」ところが細かく演技で表現されていました。これも原作を読んでいると感じない部分で、映像版独自の細やかな表現です。

 

…こういうホームズのある意味冷淡に見えるところと、ワトスンのヒューマニズムを対照させて互いを強調する仕掛けになっていて、素晴らしい脚色だと思いました。「クリスマス・ストーリー度」も上がっています。(…あ、再度余談ですが、グラナダ版でホームズが宝石をネコババしているよーに見えるのは気になっています!(^^;)賞金1000ポンドと聞いて嬉しそうにしていたコミッショネアかわいそう……(笑))

 

イモヅル式に他のバージョンの『青い紅玉』も見たくなってきました。うちにあるのはたぶん犬版のアニメとピーター・カッシングのテレビシリーズ版くらいですが、見直してみようかなあ……。(じつは『青い紅玉』というタイトルを最初にインプットしたのは犬版。原作にはまるはるか前でした。その当時こうなるなんて想像もできませんでした……(笑))