カテゴリ【JUNE/BL/耽美】


真夜中の善と悪の庭で/『真夜中のサバナ』(1997)

とても好きだったケビン・スペイシーがあんなことになってしまって……(最近どうしてるんだろう?)……気軽に話しにくくなってしまったのが残念なんですけど、映画の価値は変わりません。折々思い出す傑作の一本です。むしろ今見るとまた別の味付けを「ちょい足し」したような感じがするかもですね……というわけで、夏休みのおうち時間におすすめな映画の一本として、塩漬け記事を発掘します。若々しいジュード・ロウも儲け役でした。懐かしい方未見作品ハンティング中の方もぜひ。

(旧館日記(『腐女子の本懐~としま腐女子のにっき~』2012/10/10投稿記事の発掘再掲です)

 

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Masterpiece/『ベニスに死す』

 

定番というかクラシックというか。特に腐女子系界隈ではご覧になってる方が多いと思います。初老の作曲家がベニスで見かけた美少年に魅了される話。(これを現代にしてもう少し俗っぽくしたのが、ギルバート・アデア『ラブ&デス』ですね。ジョン・ハート主演で映画化もされました)話はそれだけですが……改めて、もうマスターピースの一言でした。見ていてそれしか浮かびませんでした。そしたら、特典で入ってたオリジナル予告編のコピーもその一言でした。「Masterpiece」。やっぱりそれしか言いようがないんですね。

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営みとして/『ゴッズ・オウン・カントリー』感想

文句なしの傑作でした。ゲイを扱った映画ではあるけれど、予想したような意味では「ゲイ・ムービー」とも「ラブストーリー」とも感じなかった一本です。描写の生々しさを考えれば立派に(?)「ゲイ・ムービー」ですし、チラシには「ラブストーリー」と書いてあるんですけれど。腐女子の自分にとっての「萌え」はほぼなく、それでいて力強く感動的で、引きつけられる映画でした。

 

むしろ強く感じたのは、人の「営み」とはこういうものなんだ、という感覚。そう教えてもらった、もっと言えば「突きつけられた」という感じです。日々働いて生きていくという現実に、ゲイの主人公のリアルを「普通に」織り込んで、むしろ異性愛の映画ではありえないほど、地に足のついた形で表現していました。ゲイの「Equality」(平等/同権)を超えた、新しいレベルのゲイ・ムービーだと思います。それと同時に、少し苦い思いも湧きました。以下の感想では、設定や途中までのなりゆきに具体的に触れますのでご了承ください。

 

さて、主人公はイギリスの田舎の畜産農家の息子ジョン。体が不自由になった父、祖母との三人暮らしです。住居と牧場は人里離れた荒涼とした所にあり、彼はそこを実質ひとりで切り盛りしている…というより、たぶん「させられている」という感覚で働いています。牛や羊への態度を見ると仕事自体を嫌っているわけではなさそうですが、状況に憤りを持っている様子です。

 

一家は彼が頼りですが、父は人格的に不器用な人で、自分が思うように動けない歯がゆさから息子には小言ばかり。そんな父と折り合いがいいわけもなく、ジョンはときどき町のパブに行っては飲んだくれます。行きずりの若者とトイレで手っ取り早くファックをし、相手が好意を見せてもそれ以上の(人間的な)関係は拒絶。そして帰って二日酔いで吐いては祖母にたしなめられる生活。彼がゲイであることは、もちろん父も祖母も知りません。主人公のすさんだ精神状態と息の詰まり具合が、最初のシークエンスで強烈に伝わってきます。

 

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「サン・クレメンテ化」する音楽とサンクチュアリ/『君の名前で僕を呼んで』

劇場で一回見たあと原作を読んで書いた感想です。挿入歌の私的な解釈も少し書いています。ちまちま手を入れてるうちに二か月くらい時間が経ってしまいました(^^;)。長くてすみません。(これでも書き足りなかったりする(笑))原作の映画で省かれた部分の内容に少し触れていて、逆にパンフ等は読んでいないので、そのへんもあらかじめご了承くださいませ。

 

*      *      *

映画と原作

 

主人公の少年エリオが暖炉の火に照らされながら、ゆっくりと涙ぐんでいく長回しのラストシーン。あそこで流れていた"Visions of Gideon"を今聴きながら書いてます。自分にとってこの映画は、あのワンシーンとこの音楽に尽きます。監督はティモシー・シャラメにこの曲をイヤホンで聴かせながら演じてもらったとか。納得です。あとで書きますが、原作からばっさり切った要素をこの曲が充分に補完して、映画として着地させる役割を一手に引き受けていた感じさえします。

 

正直映画から「物語として」の面白みは感じなかったのです。筋はある意味単純で、美しい二人が出会い、まどろっこしい手順を経て思いを打ち明け合い、体の関係を結び、もともと限られていた時間が尽きて美しく別れる。イタリアというと『青いなんたら』的世界(「お坊ちゃんが大人の女性に性的な手ほどきを受ける」青春映画)が十八番なイメージがあるんですが、ある意味その手のファンタシーの範疇でもあるのかも。でもそれが男性同士の同性愛になると、なんと深遠で美しいものとして、ある意味高尚なものとして描かれることか――女性としては怒らなくちゃいけないところかもしれません。腐女子としては「ごっつぁん」」ですが。(笑)

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癒される/『モーリス』4K版鑑賞してきました。

アレック・スカダー
今回のチラシをゲットし損ねたので、代わりに過去絵を掘り出して少し手を加えてみました。(今ならこうは描かないかもしれないな、とは思いますが……(笑))アレック・スカダーを演じたというだけでもう、ルパート・グレイヴスは永遠です。(断言)

今回の上映について

4K版『モーリス』劇場公開、うちから唯一行けそうな恵比寿の最終週になってしまいましたが、滑り込みで鑑賞して参りました! ほんとに行って良かった……大げさに聞こえるかもしれませんが、生き返りました。ほんとに。こんな映画を作ってくれてありがとう……!そう改めて思いました!

 

やはり好きなのでDVDではしばしば見返していますが、今回は4Kだからというより「劇場で見る」というのがやはり特別でした。……真っ暗な空間で集中して大きなスクリーンで見ることが。そして暗い中でちょっと恥ずかしく思いながら涙を拭いたときに、隣の知らない人も目にハンカチを当てる仕草をしているのがそれとなく目の端でわかったことが――今回の鑑賞をとても素晴らしいものにしてくれました。

 

この作品、見返すたびに違うところに目がいったりもする作品です。今回すごく感じたのは(ちょっとこういうことを書くのは恥ずかしいのですが)、美と品のよさは人を癒やすのだなあ……ということでした。美しく品があり、かつこういうテーマで良質の作品にどっぷりと浸る時間の、なんと贅沢なことか。

 

(品という言葉は使うのが難しいのですが、キャラクターが上流階級かどうかとか、肉体的な露出度とは関係なく、という意味で。上流階級を描いても「安い」作品はたくさんありますよね)

 

それだけ落ち着かない日常を過ごしているのだなーと自覚したわけですが(^^;)、そういう生活のなかでこそ、こういう時間は絶対に必要なものだとつくづく感じました。心のゴハンなのですよね。

  

以下は作品そのものについて、以前薄い本にルパート・グレイヴスがらみで書いた紹介レビュー(定番作品なので紹介というよりおさらい、という感じで書きました)に、今回感じたことを交えて掲載します。ちょっと文章のノリが変わりますがお許しくださいませ。また、おさらいと言う性質上、ラストについても方向性にぼんやりと言及しているので、未見の方はどうぞご判断くださいませ。

 

 『モーリス』(1987)――作品について

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「こんなにも自分を嫌わずにいられたら」/『真夜中のパーティー』(1970)映画と戯曲感想

 

公開当時ゲイムービーのエポックメイキングだったという『真夜中のパーティー』。レンタルで鑑賞しました。ゲイ仲間のバースデーパーティーに事情を知らないストレートの旧友が訪ねてきて……という集団心理劇。もともとは舞台劇で、ニューヨークの1960年代のお話です。じつは以前、大好きなマーク・ゲイティス氏がイギリスでこれの舞台に出演(しかもリアルの「夫」様と共演!)とTwitterで宣伝していて、調べたら映画化作品のコレがあったので、「見たいなー」と思い続けていたのです。そしたら少し前に、運よく近所のツタヤの良品発掘コーナーに入ってきたのでした。

 

さて、設定だけ見るとコメディにもなりそうなお膳立てなんですが……けっこうつらい映画、かつ引き込まれる映画でした。というのは、ゲイであることをメタファーとして、「生きにくさ」を抽象的なレベルで自分に引きつけて見ることができるからです。そういえば一般映画として公開されるタイプのゲイムービーって、こういう「生きづらさへの共感」が大きな要素としてあるなあ……と思いました。この作品は腐女子目線でも萌え要素はほぼゼロですし、60年代風俗が今見るとイタかったり、不愉快なくらい「辛い」ところもあったのですが、なぜか返却するまでに三回見返してしまいました。別の引力があるんです。(音楽にも時代感があって……子供の頃エレクトーンで習ったバート・バカラック『ルック・オブ・ラブ』が使われてたりして、初見なのに妙なノスタルジーも味わいました。(^^))

 

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Queers:モノローグで辿る英国のゲイの一世紀

イギリスで男性の同性愛行為が「違法でなくなった」のは1967年のこと。今年はそれから50周年にあたります。この夏にBBCがそれを記念し、"Gay Britania"という企画を展開していました。それに関連して出たのが、ご紹介する"Queers: Eight Monologues"マーク・ゲイティスさん(海外ドラマ『SHERLOCK』制作・脚本・マイクロフト役)が、Twitterでサイン本の宣伝をしていて知りました。Gay Britaniaの一環で放映された独白劇シリーズをまとめた戯曲集で、ゲイティス氏は全体のキュレーションと一本目の執筆を担当しています。

 

 

ゲイティス氏自身オープンなゲイであり、パートナーのイアン・ハラードさんとシビル・パートナーシップ(同性カップルに結婚に準じた権利を認めるイギリスの制度)の関係を結んでから10年近くになるそうで、LGBT関連の運動にもよく参加しておられます。むしろ推進役の一人と言ったほうがいいかもしれません。 

 

…ゲイティス氏のファンでもあり、自分の作品中でも及ばずながらイギリスのゲイのキャラクターを書いているので、このへんのリサーチはライフワーク化しているところ。これは一石二鳥であります。さっそくkindle版無料サンプルをダウンロード。サンプルはゲイティス氏によるイントロダクションだけでしたが、ご自身の少年時代の思い出から今回の企画の意図、八本のエピソードの紹介……と引き込まれてしまい、そのままコミティア会場からkindle版を購入しました。(当日店番しながらサンプルを読んでいました(笑))衝動買いでしたが後悔なしです!(^^)

 

イントロダクションによると――

 

この一世紀のイギリスを舞台にLGBT+の歴史全体を描こう、とは思わなかった

それよりずっとやりたかったことは、ゲイの男性の経験を詳しく掘り下げることだ」

(以下引用部は拙訳)

 

 ――とのこと。そんなわけで一つ一つのエピソードでは、節目になる年に居合わせた個人の体験が語られます。それぞれ約20分の独白劇=一人芝居が全部で八本で、同じキャストで舞台でも上演されたそうです。キャストのうち、少なくとも自分が確認している四人――ベン・ウィショーアラン・カミングイアン・ゲルダー、ラッセル・トーヴィー――は、実生活でもオープンなゲイの俳優さんです。

 

順不同で三本読んだところなんですが、資料という言い訳(?)を忘れて引き込まれています。うちの本をお読みくださっている方にはたぶん琴線に触れる内容だと思うので、少しご紹介してみたいと思います。

 

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横浜古書店散歩とポケミスの「ホモセクシュアル探偵」ブランドステッター・シリーズ

(先日古書店散歩したときの記録にリンク等を加えたものです)

 

2017/06/06 15:43

馬車道のカフェでポメラで書いています。今日はぽかっと時間が空いたので、ちょっと前から気になっていた黄金町(こがねちょう)~伊勢佐木町(いせざきちょう)界隈の古書店散策に来ました。このあたりは以前は映画館がたくさんあって、古書店もついでによく回ってたんですが、ネットで調べたら知らなかった店もあったのでいつか行ってみようと思っていました。ちょうど曇って涼しくなり、歩き回るには最適です。(文末に地図も載せときますね)

 

さて、今回はほしい本がありました。それが最近読み出したポケミスのブランドステッター・シリーズ。残念ながら邦訳は絶版で古書を探すしかないのですが、デイヴ・ブランドステッターという保険調査員が主人公の「ホモセクシュアル探偵」シリーズです。知った経緯はまったく別の方向で、今はまっているレトロ狙い(60~70年代あたり)とイアンシリーズの遠回しな資料漁りで、同じポケミスの『冷戦交換ゲーム』というのを図書館で借りて読んだとき、巻末の既刊紹介に「話題のホモ探偵」とかいう(うろ覚えですが)紹介文を見つけたのです。『冷戦交換ゲーム』は今も刊行中ですが、図書館の本は初版でだいぶ古く、当時たぶん「ゲイ」という言い方は一般的でなかったからこういう表現なんだろうな……と思ったんですが、のちに作者がゲイという言葉が嫌いだったと判明。

 

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不在者への恋文/『イヴ・サンローランへの手紙』

君はアーティスト、そして私は絶対的自由主義者。

ところが人は私たちを実業家に変装させた。とりわけこの私を。

(『イヴ・サンローランへの手紙』p.55 ピエール・ベルジェ/川島ルミ子訳 )

 

2008年に亡くなったデザイナーのイヴ・サンローラン。ほぼ同時期に作られた伝記映画2本(『サンローラン』『イヴ・サンローラン』)を先日鑑賞しました。そのあと読んだのがこれです。サンローランはゲイだったそうで、著者は50年間公私にわたってパートナーだったピエール・ベルジェ。(表紙写真の右がベルジェ、左がサンローランです)サンローランの死の直後から約1年間の出来事、回想などが書かれた本で、ある意味極上のJUNE文学でした。おすすめです。

 

…ちなみに自分はもともとブランド品に興味がなく(^^;)、サンローランもかろうじてデザイナーの名前だと認識していた程度。「イヴ」なんて女性かと思っていたくらいです。(スペルが違うんですね。ブランドマークにも入っているYでYves。知らなすぎてスミマセン)サンローランがゲイだったことも、もちろん映画で初めて知りました。なので、あくまで(ブランドへの思い入れなしに)鑑賞している立場だということをお断りしておきます。

 

イヴのことを思うとき、わたしがまざまざと思い浮かべるのは、

ディオールでの彼の最初のコレクションの後で知り合った近眼で内気な青年だ。

私の手を取り、連れていくようになる青年。栄光に出会ったことを、それが二度と彼を放さず、

スタール夫人が言うように「幸せの華やかな喪」をもたらすことを

彼がまだ知らなかったこの壊れそうな瞬間を私は思う。

彼は二十一歳だった。(p.176-177)

 

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『坂田靖子 ふしぎの国のマンガ描き』/「やおい」と「JUNE」と「色気」の話

大好きな坂田靖子先生のデビュー40周年記念本が出ました!おもな感想は個人ブログに書いたのですが、そこで書ききれなかった「やおい」「JUNE」のお話、イモヅル式に創作に関して思ったこともちょろっと書かせていただきマス。(連動企画の原画展は明日からですね。ぜひ行きたいです!)

 

直後に届いたデアボリカ通信(坂田先生が発行しておられるニュースレター)と原画展DMをまじえて記念撮影。今回の切手は「けんちん汁」♪

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